乳がん、切らずに治したい
特集:地域医療を考える 乳がん、切らずに治したい 放射線の効き目100%に
◇「KORTUC」考案
女性がん患者のうち、最も多くを占めるのが乳がんです。切らずに治せたらというのが、多くの女性の切なる願いです。高知大医学部教授の小川恭弘放射線部長(56)は安価な既存の薬剤を使うだけで、低下しがちな放射線の効き目を100%に戻す放射線治療法「KORTUC(コータック)」を考案しました。切らずにがんが消えるという画期的な効果を挙げ、全国から注目されています。【聞き手は大澤重人・毎日新聞高知支局長】
----乳がんの患者が増えているのですね?
◆年間に4万人(推定)が発症し、1万人以上が亡くなっています。肉や乳製品など食生活の欧米化によって、発症者が増えています。女性ホルモンがより分泌され、乳せんが刺激されるのです。96年以降、日本人女性のがん患者の中で乳がんが1位となりました。40代の発症が一番多いのですが、20代でもかかります。
----普段心がける自己診断の方法はありますか?
◆生理の1週間後など月1回、乳房や脇の下を万遍になでて、しこりがないかチェックしてください。この自己検診と40歳以上の人は年に1回、集団検診でX線撮影「マンモグラフィー」を受けるべきです。ただ、マンモグラフィーは万能ではなく、若い人の場合ほど見落としがあります。自己検診と集団検診、超音波検査の3点セットをお勧めします。早期発見すれば5年生存率は90%以上、一番進行した段階では約10%と言われており、早期発見が何より大切です。
----がん治療での放射線治療の役割を教えてください。
◆がんになる人は年間65万人です。局所治療は手術か放射線かになります。全身への進行を抑えるには抗がん剤による化学療法です。放射線治療を受けるのは、米国では7割に達しますが、日本では3割に過ぎません。なぜかと言うと、被爆国なので放射線が怖いと言うイメージが強いのです。もう一つは、日本では胃がんが多かったので、早期の胃がんを手術で治してきました。そのため、がんは手術で治るというイメージが定着し過ぎました。
さらに医療体制にも問題があります。画像診断などの検査を行う放射線診断医は国内に約8000人、診断に基づいて放射線を当てる治療医は600-700人です。両者を区別している病院が少なく、絶対数も少ないのが現状です。
----どんな放射線治療がありますか?
◆外から当てる外部照射と、体に直接当てる組織内照射があります。全体の9割を占める外部照射を行うのが、電子を放出させる直線状加速装置「リニアック」です。
がんが2、3センチを超えれば、抗酸化酵素だらけになり、酸欠状態になります。放射線を当てても効き目の3分の1しか効かないのです。がんが大きくなればなるほど効かなくなります。
----解決するにはどうすれば?
◆二つの方法があります。高価な粒子線(炭素線)と、安くて安全な増感剤です。より威力のある粒子線を当てるとがん細胞が100%近く壊されます。大きながんも治せるとのことです。千葉や兵庫などで行われており、さらに全国16カ所で計画が進められていますが、建設費が数百億円もかかり、保険が適用されず治療費が300万円と高額なのが難点です。
一方の増感剤は、「安全かつ安価で効果があります」というのが私たちの主張です。増感剤は放射線の効果ががんの酸欠状態のため3分の1に落ちるのを元に戻す薬です。
----効果的な増感剤「KORTUC」の開発について。
◆抗酸化酵素が悪さをしていることがわかり、それをブロックするためにはオキシドール(過酸化水素)を使えばいいことがわかりました。同酵素を分解すると同時に、それ自体も水と酸素に分解されます。腫瘍(しゅよう)の中が酸素だらけになり、放射線の効き目が元に戻るのです。技術の進歩でがんの部位を見ながら血管を避けて注射できるようになり、40年ほど前からあった発想を実現することが出来ました。この治療法を「KORTUC(高知式酵素標的・増感放射線療法)」と名づけました。
しかし、オキシドールをそのまま注射すると、急速に分解され、拡散します。しかも激痛を伴います。そこで思いついたのが、しわ取りなど美容分野で使われるヒアルロン酸です。オキシドールと併用することによって、48時間注射した局所に滞留し、痛みも和らぐのです。
----「KORTUC」の治療の実際は?
◆乳がんでは放射線照射は16回が基本です。週5回(月-金)照射、週2回(月・木)注射です。注射は照射の30分~1時間前に増感剤を注入します。照射はほんの数分で終わります。局所麻酔をかけますので痛みはありません。
乳がんは06年10月から始め、乳房温存目的で30例ぐらいしていますが、再発はありません。評判を聞きつけ、北海道から沖縄まで患者さんが来られます。無償で技術提供しており、東京の放射線治療専門病院や住友別子病院(愛媛県新居浜市)などで導入されています。現在、日本をはじめ、米中印など9カ国で放射線・化学療法増感剤として特許出願中です。
----治療費や副作用は?
◆治療費の追加負担は求めていません。放射線治療自体には二日酔いのような症状も出ることがありますが、「KORTUC」はいずれも人体の構成成分のため副作用は考えられません。
----自己診断で乳房にしこりが見つかった場合の治療の流れを教えてください。
◆細い針で組織を採取し、病理検査を行います。がんと診断されたら、転移の有無を調べるため陽電子放射断層撮影「PET-CT」を行い、脳以外の全身チェックをします。悪性度を判定し、早期がんの場合は乳せん部分切除と放射線治療による乳房温存療法、進行したがんなら、抗がん剤治療と「KORTUC」などを併用することになります。
あくまで最初は抗がん剤や部分切除などの標準的な治療を勧めます。「KORTUC」は、どうしても受けたいという人に行っています。
----「KORTUC」は他のがんでも使えるのでしょうか。
◆進行性皮膚がんへの臨床利用が06年4月に学内の倫理委員会で認められたのを皮切りに、乳がん、軟部組織肉腫、表在性リンパ節転移、進行性肝臓がん、進行すい臓がん、進行腎臓がんと次々認められています。現在までに100例ほどの患者さんに適用して効果を上げています。
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問い合わせは、乳がん110番(088・880・2367)へ。月-金曜の午前8時半-午後5時半。
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◇検診で早期発見--高知県総合保健協会・高橋聖一医師
乳がんは女性のかかりやすいがんのトップです。やっかいなことに乳がんには他のがんと違うところがあり、がん治療後10年以上たって再発する(転移も含む)ことがときどきあります。そのため乳がんは乳房内にとどまっているうちに早期に発見することが大切です。
幸い、乳がん検診ではマンモグラフィー(乳房のX線写真)が導入されており、小さい乳がんがたくさんみつかっています。まず、検診を受けることです。自治体の検診、職場検診、人間ドックなどで受診できます。自己検診も非常に大切です。検診で発見できなくて次の検診までに大きくなる場合もあります。
自己検診法の冊子は検診現場でも配布されております。乳がんの症状はしこり、痛み、出血、乳汁、違和感、乳頭や皮膚のひきつれなど多彩です。検診で精査になったり、症状でおかしいなと思ったら適切な精密検査ができる乳がん専門医または認定医のいる病院を受診することです。 (m3.comより)
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