がんを生きる つながりを求めて 悩みの受け皿「哲学外来」
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悩みの受け皿「哲学外来」 がんを生きる つながりを求めて/3
2009年11月25日 提供:毎日新聞社
がんを生きる:つながりを求めて/3 悩みの受け皿「哲学外来」
◇医療のすき間埋める
テーブルのカップからコーヒーの香りが立ち上る。東京都東久留米市のキリスト教施設で先月開かれた「がん哲学外来」。順天堂大学医学部で病理学を研究する樋野興夫教授(55)が、08年から始めたがんの相談会だ。
昨年秋、肺がんと診断された女性(35)が話し始めた。「主治医から抗がん剤治療を勧められたのですが、なぜ必要なのかきちんと説明してくれません。『自分で考えて』とまで言われて……」
女性は抗がん剤と放射線の治療を受けてきた。この夏には転移した卵巣の手術を受けた。いったん抗がん剤治療が終わり、普段の生活を取り戻せると思った途端、医師が別の抗がん剤を打診してきたという。
入院中、親しい看護師に「先生とうまく話せない」と打ち明けてみた。だが、それを耳にした主治医がベッドにやってきて言った。「ぼくは、あなたにきちんと説明している。なぜ看護師とコソコソ話をするの!」。病院への不信が募った。
そのころ知ったのが哲学外来だった。女性は仕事や家族のことも打ち明けた。ヘアメークの仕事はやめざるをえず、夫や両親は彼女を気遣うあまり、寡黙になった。「自分ががんになる前の家庭とは、あまりにも変わってしまった」
テーブルを挟んでじっと聞いていた樋野さんが口を開いた。「医者は抗がん剤の必要性を説明したつもりなんだろうが、伝わってないね」。どこか相手を安心させる、ゆったりとした出雲弁だ。
哲学外来は診療ではないから治療や診断はしない。仕事や家族との関係に戸惑い、生と死を考えて立ち往生するがん患者に助言する場だ。「日本の医療には、大病を得ていかに生きるかという根源的な問いの受け皿がない」と樋野さんは言う。
樋野さんは島根県西端の小さな漁村の出身。近くに医者はおらず、体が弱かった子供のころは、よく母におぶわれ隣村の診療所まで行った。そんな経験からか医師を目指したが、人と話をするのが苦手で、患者と直接接しない病理学を選んだ。
発がんの仕組みやがん遺伝子を研究するうち、「がん細胞が人間社会と重なるようにみえた」という。「人間社会でも一人の悪い人が周囲を巻き込む。でも、もし自分の家に不良少年がいても、殺せない。家族だから共存していくしかない」
窓から晩秋の柔らかな日が差し込んでいる。
肺がんの女性の相談は1時間半に及んだ。最近になって、もう一方の卵巣への転移も疑われるようになったという。病気、家族、仕事の悩みを聞いた樋野さんは「三重苦だね。でも『人生いばらの道、にもかかわらず宴会』だよ」と言った。聖書の一節を樋野さんなりに解釈した言葉という。
病状は予断を許さない。だが、女性はいま、その言葉をかみしめている。「がんになって被害者意識の塊になっていたけれど、自分が変われば相手も変わる、がんの自分も自分なんだ、と吹っ切れました。もう一度、人を信じられそうです」【永山悦子】=つづく
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◇がん哲学外来の開催場所
現在、東久留米市のほか、横浜市神奈川区、千葉県柏市、東京都新宿区で月1回、定期的に開かれている。利用は無料。申し込みや問い合わせ先は次の通り。東久留米(メールhigashikurume.gg@gmail.com)▽横浜(メールmizo38@rose.ocn.ne.jp)▽柏(電話04・7137・0800)▽新宿(東京土建国民健康保険組合員と家族対象、電話03・5348・2982)。
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