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渡航移植はいま 『命のリレー』の舞台裏 関与、どこまで許される 指針めぐり現場に戸惑い

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関与、どこまで許される 指針めぐり現場に戸惑い 「『命のリレー』の舞台裏 渡航移植はいま」(下)

2009年11月25日   提供:共同通信社

 〈死刑を執行された者からの移植は、ドナー(臓器提供者)の自由意思の確認が困難であることから、国内外を問わず禁止する〉

 日本移植学会の倫理指針の一節だ。

 これに抵触しかねないとして、現場の医師らは中国の移植医療にかかわることを極力避けている。患者が中国行きを望んでも協力できないという共通認識もある。実情はどうなのか-。

 「この5年間で13人、中国で移植を受けた患者の術後ケアをしている」

 10月上旬、東京都心の病院の一室。肝臓移植のベテラン医師は、ソファに腰掛けるとひざの上で手を組み、ゆったりとした口調で切り出した。

 移植後の拒絶反応を抑えるため、患者には免疫抑制剤の処方を含めた定期的なケアが欠かせない。渡航移植をした患者にとって、帰国後の診療は文字通り死活問題だが、医療現場では「中国帰り」を理由に断る動きが出ている。

 この医師も、死刑囚をドナーにすることは問題だと考えている。「あくまでも人道的な見地から、ほかに行く病院のあてがない患者に限って受け入れている」

 中国の医療機関から患者が受け取る診療記録は書類数枚だけ。詳しいデータがなく、術後ケアで困ることが多いという。

 「やむを得ず、現地の病院に何度か問い合わせたこともある。先方とは最小限の接触にとどめたが、『今後も患者を受け入れてくれないか』と打診されたことも」と医師。

 日本ではドナーが極めて少なく、「死刑囚」の懸念がない欧米での移植は巨額の費用がかかる。「患者の立場に立てば、中国に行くのは仕方ない」。ひざの上に手を組んだまま、医師は静かに言った。

 都内の大学病院に所属する別の医師は、患者の命を左右しかねない場合でも関与すべきではないのか、「線引き」が難しいと漏らす。

 「例えば、患者が移植を受けようとしている現地の病院の手術成績が悪いと知っている場合。『そこは危ない』と伝えたり、代わりの施設を紹介したりしなくていいのか」

 指針は移植医療の大原則を示すだけだ。命か倫理か。選択は事実上、現場の医師に委ねられている。

 日本移植学会のある幹部は「中国に移植手術の手伝いに行った日本の医師を何人も知っている」と打ち明ける。

 死刑囚から取り出したり売買されたりした臓器が使われている可能性が否定できない以上、学会としては本来容認できない行為だという。

 しかし、と幹部は続ける。「その医師から『自分が行かないと患者が死ぬ可能性がある』と言われたら、どうしようもない。医療にはそういうことがある」

※日本移植学会の倫理指針

 死刑囚からの移植や臓器売買を国内外問わず禁じ、疑いがある海外の医療施設に患者を紹介しないよう求めている。移植には死体の臓器を使うことが望ましく、生体移植はやむを得ない場合にのみ行うべきとも規定。指針違反の場合は、学会の倫理委員会で話し合い、総会で処分を決定する。移植医療には臓器提供者が必要という特殊性があり、医療従事者の倫理的な配慮が不可欠という考えから制定された。世界保健機関(WHO)や国際移植学会の指針が反映されている。

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