がんを生きる つながりを求めて 患者の自尊心回復
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患者の自尊心回復 がんを生きる つながりを求めて/4
2009年11月26日 提供:毎日新聞社
がんを生きる:つながりを求めて/4 患者の自尊心回復
◇偉大なる「おせっかい」
「人間には、死ぬという大切な仕事があるんですよ」
先月、千葉県柏市のがん哲学外来を訪れた肺がんの女性(69)に、順天堂大教授の樋野興夫さん(55)が語りかけた。女性は13年前、乳がんが肺に転移した。腫瘍(しゅよう)の大きさにそれほど変化はないが、長期に及ぶ通院に疲れ、夫への不満を募らせていた。「一つも気遣ってくれない。もう一度頑張ろうという気持ちがなくなった」
がんという、死に直面する病気をきっかけに、人間関係がざらつき、生きる目標を見失う患者は多い。「最期までどう過ごすかは、あなた次第。がんという苦しみを体験した分、あなたは健康な人より精神的に一段上にいる。だから、あなたから歩み寄ることができるはず。ご主人との時間を作る努力をしてはどうですか」。樋野さんの提案に、女性はうなずいた。
病理学者の樋野さんは05年、建材などに使われたアスベスト(石綿)で発症する難治性がん「中皮腫」の検診法を開発した。その年、順天堂医院は日本初のアスベスト・中皮腫外来を開設、樋野さんは研究室を出て、患者の問診を担当した。これが、がん哲学外来を開設するきっかけになった。
中皮腫は、発症すると半年程度で亡くなる患者も少なくない。患者は主に建設業界で働く人たちだった。「どのくらいもちますか」と問われ、樋野さんはあいまいにしか答えられないことも度々だった。患者は「では、どうしたら」と畳みかけてくる。樋野さんは「そこからが勝負だった」と振り返る。
当時は人と話すことが苦手だった樋野さんだが、考えた末に「病気は変えられないが、病気への反応は変えられる。病気以外の仕事や家族について考える時間を増やすことはできるでしょう」と答えた。仕事や従業員を心配する患者には「立派ですね。高尚なる生涯です」とたたえた。絶望のふちにいた患者の中には、現実を受け入れ、「目の前のものより、もっと良いものを残して去りたい」と自尊心を取り戻す人もいた。
「患者は生きる基軸を求めているのに、それに応える場がない」。全国に375ある地域がん診療連携拠点病院には相談支援センターが設置されるが、多くの相談窓口は情報提供にとどまっていると、樋野さんは感じる。そこから、がん哲学外来を思いついた。
07年にがん対策基本法が施行され、患者の視点に立つ医療に目が向けられると、順天堂大は樋野さんの提案を認め、08年1月、最初の哲学外来が大学で開かれた。5日間で55組が訪れ、キャンセル待ちも出た。
生と死を見つめる人々と向き合う樋野さんは言う。「相談者に『偉大なおせっかい』を焼いているのです。そして、私自身も一人の人間として、患者から学んでいます」【永山悦子】=つづく
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◇がん哲学外来の広がり
樋野さんの取り組みに共感したボランティアが、首都圏で哲学外来の運営を始め、それが青森県八戸市など地方にも広がっている。長野県佐久市では9月、医師、看護師らを対象に「がん哲学外来研修会」が開かれた。一方、首都圏の看護師らは1月、NPO法人「がん哲学外来」を設立。活動に携わる人たちの研修やシンポジウムに取り組んでいる。
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