「アクチビン」細胞分化の誘導物質
「アクチビン」細胞分化の誘導物質
細胞の分化を誘導するたんぱく質「アクチビン」
産経新聞 知の先端 平成21年11月23日
人の体は約60兆個の細胞で構成される。たった1個の受精卵からどのようにして心臓や神経、皮膚などの組織、器官が作られるのか・・・。
東京大学特任教授 浅島誠
横浜市立大学には大学院がなかったため、助手もいない、大学院生もいない、研究費もないという状況。でもその分、研究に必要な「自由な時間」に非常に恵まれました。授業を終え、たった1人で研究する日々。カエルの皮膚、骨髄、ヒーラー細胞、ニワトリ胚、フナの浮袋など、研究に使った物質は100種類以上。そこから物質を抽出し、濃度や温度、組み合わせを変えるなど、ありとあらゆる実験を重ねました。
その間、指導教官や科学者仲間からは、「もう止めた方がいい」と何度もアドバイスされました。「誘導物質は存在しないのではないか」。学会や科学者の間ではそんな雰囲気があり、学会に出席しても全く見向きもされない。そんな私のことを心配してくれたからです。しかし私は、全く気にしませんでした。誰が何といおうと、誘導物質の存在は、私の中では確信に近い信念だったからです。
そしてついに、未分化細胞を形づくりのセンターである脊索に導く「アクチビン」(たんぱく質の一種)の存在を発見したのです。1989年のオランダの国際学会での発表後、イギリスやアメリカなど海外の科学者たちが追試験を実施し、その存在が実証されました。小さな日本という国の、たった1人の科学者の成果を世界中が受け入れてくること、自分の研究成果が日付とともに残ることは、非常にうれしいものでした。
さらに長い研究生活の中で、私には新たな夢ができていました。誘導物質を利用し、未分化細胞から心臓や筋肉などの臓器を生成することです。「筋肉のような複雑な器官が、単一たんぱく質からできるはずがない」。そう言われたこともありましたが、その後の研究によって、試験管の中で22個の人工器官形成に成功しました。これらは生体移植も可能であり、正常に機能することが明らかになっています。
将来的には、基礎科学を更に深めて移植医療への応用も視野に入ってくるでしょう。
ES細胞から筋肉や神経、軟骨など13種類の組織を作製
血糖値低下
未分化細胞をアクチビン入りの容器に浸すと、アクチビンの濃度のわずかな違いでさまざまな組織に導かれる。
これまでマウスのES(胚性幹)細胞から筋肉や細胞、軟骨など13種類の組織を作製。
すい臓へと誘導した細胞を糖尿病のモデルマウスに注射し、血糖値を下げる事にも成功した。
思い通りの組織に細胞を分化させる技術は、再生医療の根幹となる。現在はひとのiPS(人工多能性幹)細胞を使った再生医療へ応用に目を向ける。
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